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長編「シュレーディンガーの猫を追って」 仏作家・フィリップ・フォレストさん 喪失の痛みと生きる

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長編「シュレーディンガーの猫を追って」 仏作家・フィリップ・フォレストさん 喪失の痛みと生きる

来日機会は多い。「近年フランスでは日本人作家の作品が多く翻訳されるようになり、新しい発見がもたらされている」と話すフィリップ・フォレストさん=東京都港区 来日機会は多い。「近年フランスでは日本人作家の作品が多く翻訳されるようになり、新しい発見がもたらされている」と話すフィリップ・フォレストさん=東京都港区

 知的で軽みのある筆致が印象的な今作でも、人の死を悼む「喪」の問題が変奏されている。タイトルが示すのは、量子力学での矛盾を説明する思考実験。この実験では理論上、蓋を開けて観察されるまでは、箱の中の猫は生きている状態と死んでいる状態が「重なり合う」と解釈できる。ここから、「わたし」はパラレル・ワールド(並行世界)へと思考をのばす。娘が死ななかった現実もあるのではないか、との切実な思いをにじませながら。

 「この小説で書いたのは世界は複数あり矛盾にも満ちている、という見方です。例えば19世紀フランスの詩人、ネルヴァルは『夢は第二の人生』と書いた。想像力を働かせることで、人はいくつもの世界を生きることができるのだと」

 癒えぬ喪失感を抱える「わたし」は同時に不思議なうれしさも感じる。悲しみに心震えるのは〈何かがわたしのなかに生きつづけている〉証しでもある、と。生か死かの二者択一ではない。生者と死者が「重なって」生きるという姿勢が、少しずつではあっても、喪失の痛みを生の衝動に変えていくのかもしれない。

 「読者それぞれに大切な人を失った経験があるはずです。現代では『苦しみを乗り越えよ』『悲しみを忘れねば』と一種のイデオロギーのように言われる。でも、むしろ『悲しみや苦しみとともに在る』ことがわれわれを人間らしくする。悲しみにとらわれるのを恥や病だ、とは考えないでほしいのです」

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