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【書評】胸に迫る数々の小さな物語 『NYの「食べる」を支える人々』アイナ・イエロフ著、石原薫訳

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【書評】
胸に迫る数々の小さな物語 『NYの「食べる」を支える人々』アイナ・イエロフ著、石原薫訳

 たとえば、ミスター・リーと呼ばれる大男の黒人パン職人はパンを焼き始めて50年、今の場所に店を開いて16年。近所の子供たちは学校帰りにここに立ち寄り、クッキーをもらって、また飛び出していく。彼がいう。〈「引退して振り返ったら、違うやり方をすればよかったと思うのかな。わからないけど。貧乏なまま死んでいくんだろうね、たぶん。でも、これだけはいえる。私は幸せに死ぬよ。だって、パンを焼いていて、不幸だった日はないからね」〉

 「食べること」の経験は、人の心の奥深くにそっと積み重なっていく。この本に詰まった小さな物語のひとつひとつが胸に迫るのは、みんながそのことを知っているからではないだろうか。(フィルムアート社・2300円+税)

 評・瀬戸内みなみ(ノンフィクションライター)

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