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【文芸時評】ノーベル文学賞、そこまでして村上春樹を避けたいのか 11月号 早稲田大学教授・石原千秋

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【文芸時評】
ノーベル文学賞、そこまでして村上春樹を避けたいのか 11月号 早稲田大学教授・石原千秋

石原千秋さん 石原千秋さん

 ノーベル文学賞がカズオ・イシグロに決まった。昨年ボブ・ディランに決まったときには「こういう手があるのか」と思ったが、今年は「こうまでして避けたいのか」と思った。もちろん、村上春樹のことだ。「文学界」では、沼野充義が選考委員会は村上春樹文学の女性の書き方がお気に召さないようだと指摘し、都甲幸治はアメリカでは村上春樹はもう終わっていると指摘している。いずれにせよ、ノーベル文学賞はいわば直木賞系にシフトしたことになる。

 加藤典洋が東浩紀との対談「私と公、文学と政治について」(群像)でまたトンチンカンなことを言っている。「テクスト論者が、作品におけるテクストで書き落とされること、つまりレティサンス(故意の言い落とし)ということのもつ意味に無頓着だったことに通じますね。テクスト論は書かれたものをしか相手にできないので、テクストのここに実は言われていない重要なことがあるというのは、作者を想定しないとそんなことは言えないため、ルール違反、禁じ手になります。その結果、テクストから『ないこと(秘密)』がなくなってしまう。テクスト論は作者と一緒に作品から『語られないこと(秘密)』をも駆逐してしまった」と。作者が何を「故意」に言わなかったかがわかるとは、加藤典洋は読心術でも心得ているのだろうか。

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