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【怖い絵展】(上)中野京子さんが読み解く 力のこもった作品は動きだす

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【怖い絵展】
(上)中野京子さんが読み解く 力のこもった作品は動きだす

中野京子さん 中野京子さん

 ロンドン留学中に本作と出会った夏目漱石が、帰国後エッセーとも小説ともつかぬ不思議な味わいの『倫敦(ろんどん)塔』を発表したことはよく知られている。ここでジェーンに寄せる哀惜は、漱石には珍しい装飾過多の美文調で、「蹂(ふ)み躙(にじ)られたる薔薇(ばら)の蕊(しべ)より消え難き香の遠く立ちて、今に至る迄(まで)史を繙(ひもと)く者をゆかしがらせる」。間違いなくそれはドラローシュの画力にも拠(よ)る。

 漱石は首がころがるのさえ幻視して曰(いわ)く、「首斬り役が重た気に斧をエイと取り直す。余の洋袴の膝に二三点の血が迸(ほとばし)ると思ったら、凡ての光景が忽然(こつぜん)と消え失(う)せた」。

 絵画は瞬間を描くが、力のこもった作品はこのように動きだす。噴き出た血が自らの衣服にまで飛び散る……そう実感させるまで。

                   

 「怖い絵」展は12月17日まで、上野の森美術館(東京都台東区)で開催中。

                   

【プロフィル】中野京子

 なかの・きょうこ 作家・ドイツ文学者。北海道出身。著書に『怖い絵』シリーズ(角川文庫)、『名画の謎』シリーズ(文藝春秋)、『名画で読み解くハプスブルク家12の物語』(光文社新書)ほか。「怖い絵」展では特別監修者として、作品選定などに関わった。

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