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【怖い絵展】(上)中野京子さんが読み解く 力のこもった作品は動きだす

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【怖い絵展】
(上)中野京子さんが読み解く 力のこもった作品は動きだす

中野京子さん 中野京子さん

 16歳のジェーン・グレイが処刑された1554年は、木下藤吉郎(秀吉)が信長に仕官した年だ。イングランドも日本も、政権をめぐる熾烈(しれつ)な戦いの渦中にあった。

 ジェーンは故ヘンリー8世の妹の孫で、王位継承順位が低かったにもかかわらず、政治の実権を握ろうとする舅(しゅうと)の陰謀で玉座(ぎょくざ)に据えられた。たちまち捕らえられ、10日目には早くも反逆者の仲間入りだ。あとは斧(おの)による斬首刑が待つばかり。

 --ドラローシュの巧みな絵筆によるこの等身大の大作には、有無を言わさぬ美と恐怖が漲(みなぎ)っている。ヒロインの圧倒的存在感で成功する舞台劇のように、ジェーンの清楚(せいそ)な魅力が画面の全てをさらう。

 残酷な運命を前に、怯(おび)えも怒りも見せず、周囲の同情や悲嘆にも動揺することなく、覚悟を決め、誇り高く死につこうとしている少女の、はかない一輪の白い花のごとき姿、匂いたつ美しさ、首置台を探る両腕のふっくらした幼さ、薬指に光る結婚指輪……どうして胸打たれずにおられよう。

 一瞬後には司祭の助けをかりて身をかがめ、彼女は処刑人の斧の一撃を受けるのだ。下に敷かれた藁(わら)は、夥(おびただ)しい血を吸いとるためのもの。当時は身分の高い者は斧か剣による斬首(まだギロチンは発明されていない)、一般の人々は絞首と決められていた。

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