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【書評】作家・畑中章宏が読む『ウォークス 歩くことの精神史』 世界を、社会をどう歩くか

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【書評】
作家・畑中章宏が読む『ウォークス 歩くことの精神史』 世界を、社会をどう歩くか

『ウォークス歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット著、東辻賢治郎訳(左右社・4500円+税) 『ウォークス歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット著、東辻賢治郎訳(左右社・4500円+税)

 タイトルそのままに、ずいぶんと長い距離を、時間をかけて歩いていく本である。

 二足歩行という人間に与えられた独特の移動手段について、改めて考えてみることなどたしかになかった。歩行や散策の効用ではなく、「歩く」ことそのものに意味を見つけ、精神史を描き出すことができるものか。著者はおそらく手探りで足を踏み出したことだろう。その結果、邦訳で500ページ近い大著となった。

 著者は東日本大震災の直前に邦訳が刊行され、震災後に話題となった『災害ユートピア』を書いた女性作家である。2005年にアメリカのニューオーリンズで、ハリケーン・カトリーナの襲来後に現れた疑似的な共同体を扱ったこの本は刺激的だった。

 本書では、ギリシャ哲学の逍遥学派やルソー、キェルケゴールの歩行と思考をはじめとして、数々の思想家・文学者・芸術家・政治家が世界を、社会をどう歩いたかが描出されていく。18世紀末の作家レチフ・ド・ラ・ブルトンヌや、20世紀のシュールレアリストが歩いたパリの雑踏は魅惑的だ。パサージュ(アーケード商店街)をめぐるヴァルター・ベンヤミンの考察も興味深い。

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