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【書評】文芸評論家・縄田一男が読む『真夏の雷管』佐々木譲著 ページを繰るのももどかしい快感

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【書評】
文芸評論家・縄田一男が読む『真夏の雷管』佐々木譲著 ページを繰るのももどかしい快感

『真夏の雷管』佐々木譲著 『真夏の雷管』佐々木譲著

 〈道警・大通警察署〉シリーズの第8弾である。

 今回は、佐伯警部補らと爆弾魔との虚々実々の駆け引きを描くタイムリミットものの傑作に仕上がっている。

 はじめは、少年による精密工具の万引であった。が、小島巡査部長が少年を補導するも、ちょっとした隙をみて、逃げられてしまう。

 次に起こったのは、園芸店から、肥料の硝安(しょうあん)が盗まれる。こちらは佐伯が動くが、硝安すなわち、硝酸アンモニウムは、軽油と混ぜることで簡単に爆薬をつくることができるのだ。

 佐伯は、万一のことを考えて、綿密な捜査をはじめるが、やがて前述の万引少年と爆弾の一件が、結びついてくる。

 少年の母は、覚せい剤所持で執行猶予となっているが、いかがわしい男と関わりを持ち、育児放棄に近い状態。

 少年は、何とその間に前述の爆弾魔と奇妙な友情で結ばれるようになっており、キャンピングカーで行動を共にしている。

 爆弾魔と思(おぼ)しき男の存在は、作品の半ばで既に明らかになっており、作者は、その時点で読者に対して既にカードをさらしているのである。

 但(ただ)し、爆弾魔そのものは、最後の最後まで容易に姿を現さず、彼が解放した純粋な心を持った少年の存在が、この作品に一抹の明るさを加えている。

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