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【産経抄】無人探査機「カッシーニ」 土星の懐に抱かれ、悔いのない大往生 9月17日

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【産経抄】
無人探査機「カッシーニ」 土星の懐に抱かれ、悔いのない大往生 9月17日

土星探査機「カッシーニ」 NASA/JPL-Caltech 土星探査機「カッシーニ」 NASA/JPL-Caltech

 空に散らばる星の運勢を人が背負わされているかどうかは知らない。19世紀後半のフランスの詩人、ベルレーヌはすね者だったらしく、自身を「不幸な星」の下に生まれた子供だと決めつけていた。言われなき罪を押しつけられたのが土星である。

 ▼若くして予言めいた詩を残している。〈凶(まが)つ土星の気を受けて生れた者の一生は/不幸苦労のどちらにも事は欠かぬと…〉(堀口大学訳、詩集『土星の子の歌』から)。結婚生活の破綻、持病に貧困と下り坂を転がり続けた詩人は、51歳で多端の生涯を閉じている。

 ▼占星術の多くも苦難の象徴に土星をあてがっている。地球人の探査が進んだこの十数年は、それゆえ汚名をすすぐ好機になったろう。天体を取り巻く巨大な輪はほとんどが氷でできていた。衛星には生命の3要素となる水、有機物、エネルギー源が存在するという。

 ▼どちらも13年前に土星に達した無人探査機、カッシーニが突き止めた事実である。「凶つ星」どころか、冒険心をくすぐる未知の詰まった「くす玉」だろう。天文学史に刻んだ足跡が遠い将来、地球外生命体の存在やまだ見ぬ文明との出会いに導いてくれるといい。

 ▼7つもの衛星を新たに見つけるなど、燃料が尽きるまで探査に励んだ。最後のミッションで自ら土星の大気圏に突入し、燃え尽きたのだという。土星の懐に抱かれ、悔いのない大往生だったろう。人生100年の時代にあやかりたい、中身の詰まった生き方である。

 ▼さて地球は、と空を見上げればミサイルに身構えなければならない世になった。高さ何百キロまで打ち上げようと、何千キロの遠くまで飛ばそうと誰の胸を打つこともない。遠く土星から望む地球は、愚か者の毒気に満ちた「凶つ星」でしかあるまい。

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