産経ニュース

滝口悠生さん短編集「茄子の輝き」 細やかな記憶、いとおしい時

ライフ ライフ

記事詳細

更新


滝口悠生さん短編集「茄子の輝き」 細やかな記憶、いとおしい時

「小さい会社の人間関係や律儀な慣習とか、自分にもヒントになる体験があった」と話す滝口悠生さん 「小さい会社の人間関係や律儀な慣習とか、自分にもヒントになる体験があった」と話す滝口悠生さん

 時の経過に洗い流されていく記憶の彩りを、ユーモアもまぶして細やかに紡ぐ。滝口悠生さん(34)がそんな美質を、芥川賞受賞後初の単行本となる短編集『茄子(なす)の輝き』(新潮社)で一層研ぎ澄ましている。「夫婦や仕事の人間関係もずっとは保証されない。無常観がベースにあった」と話す7編から、いとおしい時間が立ち上がる。

 表題作を含む6編は、30代前半の「私」こと市瀬の記憶と現在を描く連作となっている。3年をともに過ごした妻と離婚した市瀬が勤めるのは東京・高田馬場の「カルタ企画」。業務用機器の取扱説明書を製作する社員10人のこの会社は、東日本大震災の影響もあって経営が傾き、市瀬はやがて転職することになる。

 職場の「お茶汲(く)み当番」制度を話し合う無駄に長い会議、島根への貧乏旅行で妻が見せた表情、離婚で傷ついた心を癒やしてくれた年下の女性社員の屈託のない言葉と歌うようなしゃべり方…。倒産した「カルタ企画」での日常や、別れた妻の面影がランダムに追想され、震災前から現在までの時間が重層的に立ち上がる。

続きを読む

「ライフ」のランキング