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【書評】書評家・倉本さおりが読む『影裏』沼田真佑著 再読のたびに印象が一変

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【書評】
書評家・倉本さおりが読む『影裏』沼田真佑著 再読のたびに印象が一変

『影裏』沼田真佑著(文芸春秋・1000円+税) 『影裏』沼田真佑著(文芸春秋・1000円+税)

 すると、〈私〉の語りからじわじわと滲(にじ)み出るものがある点に気づく。例えば、かつて男性の恋人がいたということ。さらりと差し込まれるその事実は明確な定義を与えられないまま漂い、ただ〈私〉の生活のよるべなさを濃くする。それは日浅と〈私〉がつかのま共有していた空気でもあり、大文字の「震災の物語」からはこぼれ落ちてしまう孤独の姿でもあるのだ。

 投げかけられた光が必ず影を生むように、言葉をあてがった瞬間にはみ出してしまう者もいる-マイノリティーが本来立っている場所を静謐(せいひつ)かつ繊細に綴りあげた、素晴らしい作品の誕生を寿ぎたい。(文芸春秋・1000円+税)

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