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「自分の声がきらい」 芥川賞・沼田真佑さんの心配事

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「自分の声がきらい」 芥川賞・沼田真佑さんの心配事

第157回芥川賞に決まり、記者会見する沼田真佑さん=7月19日、東京都千代田区の帝国ホテル (納冨康撮影) 第157回芥川賞に決まり、記者会見する沼田真佑さん=7月19日、東京都千代田区の帝国ホテル (納冨康撮影)

 私は自分の声がきらいで、できることならどなたかの声と交換したいくらいである。もちろん無理な注文で、しかしながら、たとえばヘリウムガスを吸引したり白墨をばりばりかじったりして、一時的に声の質を変えることなら可能だろうし、それほど手数もかからないわけだ。しかし目下のところ私はどちらもやってみたいとは思わない。ただでさえきらいな声が、変に甲高い調子を帯びてますます厭(いや)になりそうである。どうして私は自分の声がきらいなんだろう。

 いや本当は、きらいというのとは少し違って、私が勝手に思い描いている自分の外見のイメージと、そぐわない感じがしているだけなのかもしれない。試みに夜、部屋の中で一人ぼそぼそと声を発してみると、自分の隣に、もしくは背後に、誰か知らない人間が立っているような気がして落ち着かなくなる。今俺の近くで喋(しゃべ)ってるのはいったいどこのどいつなんだと薄気味悪く思うこともある。

 とはいえ、もう30年以上この声とともに自分は生きてきたわけで、もはや好きになるのは難しいとしても、いい加減もう諦めて、せめて慣れでもしてしまったらよさそうなものだが、いまだにしっくりこないと感じている。一緒に住んで、もう随分になるのに馴染(なじ)めない同居人みたいなものだろうか。

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