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【書をほどき 知をつむぐ】大宅壮一に対した岡本太郎の視点 『沖縄文化論-忘れられた日本』岡本太郎著 学習院大教授・赤坂憲雄

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【書をほどき 知をつむぐ】
大宅壮一に対した岡本太郎の視点 『沖縄文化論-忘れられた日本』岡本太郎著 学習院大教授・赤坂憲雄

『沖縄文化論-忘れられた日本』岡本太郎著(中公文庫・686円+税) 『沖縄文化論-忘れられた日本』岡本太郎著(中公文庫・686円+税)

 この紀行は、とても不思議な肌ざわりを感じさせる。私には、この紀行の印象を簡潔に表現することができない。鍵となる言葉ならば、そこかしこに散乱している。たとえば、いかにも太郎らしい「痛切な生命のやさしさ」といった言葉だ。太郎は生命とか生活という言葉を好んだが、沖縄紀行には真っすぐに、しかもかぎりなく繊細に、残酷にして無邪気な生命や、痛ましくも強靱(きょうじん)な生活といったものがくりかえし描かれていた。

 沖縄には「何もないこと」ばかりがあふれていた。太郎はこの「何もないこと」の根源に横たえられたものに、眼を凝らすのである。たとえば、島々の聖所であるウタキには神体も偶像もなく、ただ香炉の石ころが数個転がっていた。それはまさしく何もない空間だ。太郎は衝撃を受けながら、その純粋さや清らかさに心を打たれ、歓喜すら覚えたのである。

 あるいは、太郎は沖縄戦に触れて、「旧日本軍隊の救い難い愚劣さ、非人間性、その恥と屈辱」について語り、「私は嫌悪に戦慄する」と書いた。この人はたしか、中国大陸の前線に送られ、二等兵として4年半の歳月を生き抜いたのだ。沖縄は戦後長く、巨大な異国の軍隊の占領下に置かれた。大宅壮一は沖縄の人々に、「動物的忠誠」なる言葉を投げつけた。太郎がそれに対抗するように見いだしたのは、「ちゅらかさの伝統」であったか。

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