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【書評】書評家・西野智紀が読む『海岸の女たち』トーヴェ・アルステルダール著、久山葉子訳 異邦の地で闇を暴く

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【書評】
書評家・西野智紀が読む『海岸の女たち』トーヴェ・アルステルダール著、久山葉子訳 異邦の地で闇を暴く

『海岸の女たち』トーヴェ・アルステルダール著、久山葉子訳(創元推理文庫・1380円+税) 『海岸の女たち』トーヴェ・アルステルダール著、久山葉子訳(創元推理文庫・1380円+税)

 舞台美術家のアリーナ・コーンウェルは、じりじりしていた。彼女のおなかには、夫パトリックとの間に授かった新しい命があり、それを伝えたくて仕方がなかったのだ。ヨーロッパへ取材に渡ったフリージャーナリストの夫は、すでに10日以上も音信不通となっていた。

 そんな彼女のもとへ、パトリックから小包が届く。中には、愛用の手帳、「あとひとつだけやることがあるんだ」と綴(つづ)られた手紙、不審な男たちをとらえた写真が数枚。不安に潰されそうになったアリーナは、夫の行方を追うべく、消印を頼りに、ニューヨークからパリへと飛んだ…。

 こうして開幕する本書は、スウェーデン生まれで現在ストックホルムに在住する著者が2009年に発表したデビュー作なのだが、驚くことにスウェーデンは舞台とならない。だが、他の北欧ミステリーと同じく、社会の歪(ひず)みや不条理を取り扱い、ひりつくような仄暗(ほのぐら)さを持っている。本書で掘り下げられているのは、移民問題だ。

 パリに降り立ったアリーナは、数少ない手がかりをもとに、パトリックの情報を集める。彼は、アフリカから海を渡ってくる不法移民問題に執心していた。それも、移民の是非ではなく、移民を奴隷化して食い物にする犯罪組織の存在を嗅ぎ付けていたのである。スペイン南端の海岸に流れ着いた黒人の死体の発見者や、ボートで密入国を図る移民の視点も差し挟まれて、展開は読めなくなっていく。

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