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【書評】文芸評論家・伊藤氏貴が読む『最愛の子ども』松浦理英子著 今年一番の傑作の予感

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【書評】
文芸評論家・伊藤氏貴が読む『最愛の子ども』松浦理英子著 今年一番の傑作の予感

『最愛の子ども』松浦理英子著(文芸春秋・1700円+税) 『最愛の子ども』松浦理英子著(文芸春秋・1700円+税)

 素行の問題で授業後に呼び出しを食らった友を半ば案じ、半ば面白がりつつ教室で待つ級友たち-井伏鱒二の短編「休憩時間」を思わせる幕開きだ。どちらも大人になる前の一時期に、いつか終わると心のどこかで知りつつ、だからこそ濃い人間関係を築く。

 ただし言うまでもなく、同じ学校、同じ教室、同じグループに属しても、同じ密度の関係を持てるわけではない。そこには中心とそれを取り巻く何重もの輪が存在する。一時期、親のエゴでかぐや姫が何人も登場する学芸会のことが報じられていたが、学校とはむしろ、現実世界には主役と脇役がいて、望んでもかなわない役があるということを思い知り、そしてその中でいかに居心地の良い役回りを見つけるかを学ぶ場所である。

 本書の場合、パパ、ママ、王子様を演じる3人の主役級の少女の周りに、10人ほどが群がって、疑似家族劇が演じられる。少女たちは真剣ではあっても、これが一つの劇であることをどこかで自覚している。普通の芝居と違うのは、演者と観客との境界が曖昧なところであり、彼女たちは主人公たちを観察しつつ、そこで自分の役柄を探ってゆく。

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