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【書評】明治大学教授、福田逸が読む『反戦後論』浜崎洋介著 小林秀雄、福田恆存の後継者が出現

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【書評】
明治大学教授、福田逸が読む『反戦後論』浜崎洋介著 小林秀雄、福田恆存の後継者が出現

浜崎洋介著『反戦後論』(文芸春秋) 浜崎洋介著『反戦後論』(文芸春秋)

 この書に解説は要らない。さかしらな書評も実は不要だ--この本はいい、私はこの本が好きだ、お奨(すす)めする--それだけ言へば十分だらう。

 あへて蛇足を付け加へる。どの章を読んでも、私の心に迫つて来るのは、浜崎氏の「心根」だといふこと。読んでゐて清々(すがすが)しい。己が故郷喪失を語らうと、天皇の孤独を扱はうと、小林秀雄を通して宣長の「情」(こころ・まごころ)に真向(まむ)かふ時でも、あるいは、「春風亭一之輔の方へ」筆を進めようとも、浜崎氏はいつも人間への柔和な眼差(まなざ)しを失はない。本書の柱の一つでもある安吾を論じた章で、安吾の「いたわり」について語る時も、救ひのないところに救ひを見出(いだ)す安吾の真情を浜崎氏は見つめ、対象たる人間から一時(いつとき)も目を離さない。

 そこに、この新人文芸批評家の真骨頂はある。人間を見る眼差しが優しく、人間をいとほしんでゐる。無論、甘いといふ言葉とは無縁だ、むしろ落ち着いた冷徹な眼差しとさへ言へる。

 「新人」と書いた。四十に手の届かうといふ気鋭の文芸批評家にあへてこの言葉を使つたが、長寿の今、四十歳は「若い」と思ふ。三十代半ばからの四年間に書いた様々(さまざま)な対象に対する浜崎氏の柔軟さは言ふまでもないが、その成熟度はどうだ。政治から文学へ、あるいは文学から政治へと語り尽くし、そして第三部で人間の「幸福について」語る時にも、就中(なかんづく)、「『落ち着き』の在処」について語る氏の語り口には、老成といふ言葉が相応(ふさは)しい。評者が六十代にして漸(やうや)く辿(たど)り着いたところから浜崎氏は出発してゐることに、羨望すら覚える。

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