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【文芸時評】公共図書館に未来はあるか 5月号 早稲田大学教授・石原千秋

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【文芸時評】
公共図書館に未来はあるか 5月号 早稲田大学教授・石原千秋

石原千秋さん 石原千秋さん

 舞台『ディファイルド』(青山クロスシアター)を観た。少し前に書かれた作品で、図書館司書だった若者(戸塚祥太)が、図書検索がPCに移行する時代に、図書カード目録を残さなければ図書館を爆破すると、命がけで訴える。説得に来た刑事(勝村政信)はアイルランド系。英語圏の現代劇を観ると、アイルランドやアイリッシュという言葉が頻出することがわかる。図書カード目録もアイルランド系も「マイノリティー」という点で共通するわけだ。その皮肉な巡り合わせがこの舞台の底流にある。

 文学界新人賞は、沼田真佑「影裏」に受賞が決まった。松浦理英子の選評は「受賞作『影裏』はきわめて上質なマイノリティ文学である」と、きっぱり言い切ってからはじまる。みごとな評価宣言である。

 「影裏」は、首都圏から岩手は盛岡に移り住んだ今野秋一が、釣り仲間だった日浅との体験を語る小説である。今野自身が「性的マイノリティー」であることがそれとなく語られ、日浅のやや破綻気味な性格と体験、そして東日本大震災の経験も書き込まれる。森の木々や生き物の名前がきちんと書き込まれ、その森の中にこれらの出来事も埋め込まれていく。都会派のお気軽な田舎暮らしとはまったくちがった生活がそこにあることが、これらの名前の数々が雄弁に物語っている。

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