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【ゆうゆうLife】家族がいてもいなくても(495)

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【ゆうゆうLife】
家族がいてもいなくても(495)

 今は電車を2つ、3つ乗り換えていかねばならないのだけれど、わが人生の節々で、何度か桜を仰いだかけがえのない記憶の残る場所でもあった。

 そこにお互いが1時間以上かけて到着したのだが、公園内の広い池の周りは、まだ桜色にかすんでいた。花びらがしきりと舞い散る姿がとても美しい。

 池の中央へと差し伸べられた桜の枝々からこぼれ落ちる花びらが、帯のようになって水面をたゆたっていた。

 「花筏(いかだ)ね、きれい」

 「桜って咲き始めも咲き終わりも、風情があるわねえ」

 「知ってる? 桜の樹の幹って、咲く直前にぽっとはにかんだように赤みを帯びるのよ」

 「ほんとう?」

 「うん、私の長年の観察によるものだけれどね」

 長い付き合いの友人とは、とりとめのない話をしながら、あたりが暮れかかるまで散りかけの桜をしみじみ眺めて別れた。

 帰り道、今年もお花見ができてよかった、と思った。

 それだけで不思議な満足感を覚え、心が満たされた。

 考えれば、桜が咲くのは1年に1度。60年生きれば、60回、その桜を誰と見るのか、どこでどんな思いで見るのか、それが自分の人生を作っていく。そんなことをぼんやりと考えたギリギリセーフのお花見だった。(ノンフィクション作家・久田恵)

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