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【書評】作家・畑中章宏が読む 『死してなお踊れ 一遍上人伝』栗原康著 「アミダ。最高。オレ、仏」

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【書評】
作家・畑中章宏が読む 『死してなお踊れ 一遍上人伝』栗原康著 「アミダ。最高。オレ、仏」

 私が心を強く惹(ひ)かれる中世日本の仏教者が2人いる。東大寺大仏殿を再建した重源と、時宗の開祖・一遍である。運慶や快慶を起用して数多くの仏像を造立し、諸堂を建立した重源に対し、一遍は「踊り念仏」と念仏札を配る「賦算(ふさん)」によって教えを広めた。その宗教表現は、「かたち」と「おこない」を重視する点で対照的だといえる。

 本書は、『村に火をつけ、白痴になれ』でアナキスト・伊藤野枝を、独特の饒舌(じょうぜつ)体で描き出した若手政治学者が、一遍に挑んだ意欲作だ。

 一遍についてはこれまで、民芸の柳宗悦による高い評価があり、宗教民俗学者の五来重は踊り念仏の歴史性から光を当てた。しかし、一遍を今日まで知らしめてきたのは、『一遍聖絵(一遍上人絵伝)』によるところが大きい。この絵巻の魅力は、虚飾が少なく、写実性に富む点であろう。栗原も聖絵の描写を参考にしながら、前著と同様の饒舌体で、一遍の「自由」な思想と身体を活写していく。

 「念仏となえて、宣言しよう。アミダ。最高。オレ、仏」「ようこそここへ、遊ぼうよ、兄弟。いくぜ極楽、なんどでも」といったあおり文句は、読者を驚かせるかもしれない。しかし、一切をそぎ落とし、やせ細った体から熱狂の極致に達する一遍の思想を描くには、ふさわしい文体だと私は思う。

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