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【書評】小説家・浅暮三文が読む『深い穴に落ちてしまった』イバン・レピラ著、白川貴子訳 閉じ込められた兄弟 アリやミミズで飢えをしのぎ、体力が落ちた弟は…

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【書評】
小説家・浅暮三文が読む『深い穴に落ちてしまった』イバン・レピラ著、白川貴子訳 閉じ込められた兄弟 アリやミミズで飢えをしのぎ、体力が落ちた弟は…

『深い穴に落ちてしまった』イバン・レピラ著、白川貴子訳 『深い穴に落ちてしまった』イバン・レピラ著、白川貴子訳

 あなたも幼い頃、砂場で穴を掘るのに熱中したはずだ。特別な世界、驚くべきなにかとの遭遇を期待して。本書は穴をめぐる物語だ。読者をして、かつて探し求めた未知の世界へ案内し、その解明を楽しませようとしてくれている。著者は1978年生まれでスペインの新進。本作の映画化も決定しているらしい。

 冒頭、すでに2人の兄弟が穴に閉じ込められている。お椀(わん)を伏せた形状の深い穴で抜け出すのは容易ではない。だが2人がなぜ、このような状況に陥ったのかは不明だ。

 2人の携えた袋には若干の食品があるが母親に届けるのだと頑(かたく)なに手を付けない。代わりに泥水をすすり、土中のアリやミミズで飢えを凌(しの)ぐ。

 艱難(かんなん)辛苦が2人を襲う。地上ではオオカミが待ち受け、嵐に見舞われると思うと日照りに苦しめられる。もはや巌窟(がんくつ)王の世界ではないか。果たして2人は生還できるのか。

 過酷な環境に幼い弟の体力は次第に落ちていく。意識が混沌(こんとん)となり、おびただしい比喩に彩られた妄想が始まる。

 白眉なのはここで、ああ、これこそ幼少時に探していた穴の世界ではないか、穴の中だけになにが起こっても不思議はないと納得させられる。ここでは妄想が現実なのだ。

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