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【書評】思想家、内田樹が読む『騎士団長殺し 第1部、第2部』村上春樹著 登場人物は村上作品の分身

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【書評】
思想家、内田樹が読む『騎士団長殺し 第1部、第2部』村上春樹著 登場人物は村上作品の分身

『騎士団長殺し 第1部、第2部』村上春樹著 『騎士団長殺し 第1部、第2部』村上春樹著

 読み終わるのがもったいなくて、ちびちび読んだ。期待通りだった。僕は「期待通り」であることに深い満足を覚えたけれど、「期待通り」がいいことなのかどうか(作家自身にとって、あるいは文学史にとって)、わからない。

 主人公の「私」は肖像画家。妻に去られたあと、一人小田原郊外の山の上のアトリエで暮らしている。自分がほんとうに描きたい絵は何か考えている「私」の下に謎めいた富豪が登場して肖像画を依頼する。それをきっかけに現実と非現実の壁が溶けて異形のものが「私」の生活に侵入してくる。というのが最初の100頁(ページ)くらいまでで、以後物語は転々と奇を究める。

 かつて村上文学には「構造しかない」と述べた批評家がいた。たしかにほとんどの長編作品は同一の構造を変奏している。現実と非現実の薄い境界線が溶けて、その「壁」を抜けて消え去るものがいて、到来するものがいる。「井戸の底」の暗闇は異界に続いている。自分の欲望を過剰に抑制する人がいて、彼が引き受けることを拒絶した欲望や思念は「邪悪なもの」に形体化して、人々を傷つける…。

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