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【書評】ドイチェ・アセット・マネジメント会長・阿部託志が読む『果てしなき追跡』逢坂剛著 著者が仕掛ける罠に嵌る

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【書評】
ドイチェ・アセット・マネジメント会長・阿部託志が読む『果てしなき追跡』逢坂剛著 著者が仕掛ける罠に嵌る

逢坂剛著『果てしなき追跡』(中央公論新社) 逢坂剛著『果てしなき追跡』(中央公論新社)

 英雄不死伝説は、その時代の、あるいは後世の人々の、英雄の死を惜しむ気持ちから生まれている。源義経然(しか)り、真田幸村もまた然り。昨今、幕末維新の人物たちの中でも人気者である土方歳三がその不死伝説の人となり得ることは特段の驚きではない。しかし、そういう気持ちでこの本に接するとしたら、読者はすでに著者が仕掛けた罠(わな)に嵌(はま)っている。著者は土方の運命に対して、感傷的な気持ちから筆を進めたわけではない。そうではなく著者が挑む新しい西部小説に、剣豪、土方が欠かせない存在だったからこそ、土方を南北戦争直後のアメリカに渡らせたのだ。

 著者が西部小説を最初に手掛けたのは今から15年前の「アリゾナ無宿」だ。3年後の「逆襲の地平線」へと続く。この2つの作品の読者は恐らくある種のいらだちを感じていたことだろう。そこに登場するハコダテから来たという謎の剣士、記憶を失い今はサグワロと名乗る男の正体がいつまでも明かされなかったからである。冒険小説や推理小説には正体不明の人物が度々現れる。しかしその多くはその物語の中で明らかになる。しかるに著者の仕掛けは違う。何と読者はその正体を知るのに十数年も待たされたことになる。しかも本書ですべてが明かされるわけでもない。読み進めれば新たな謎が再び湧き上がる。何という意地悪な仕掛けであろうか。まさに逢坂マジックなのだ。

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