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【新・仕事の周辺】塩田武士(作家) 「待ち会」にかかる電話

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【新・仕事の周辺】
塩田武士(作家) 「待ち会」にかかる電話

塩田武士さん 塩田武士さん

 返す波のように笑い声が遠ざかると、毎度、計ったように深い静けさが訪れた。

 昨年10月21日、私は貸し切りとなった都内のバーで、十数人の大人に囲まれていた。拙作『罪の声』が「第7回山田風太郎賞」の最終候補に残り、各出版社の担当編集者や新聞記者とともに、選考会の結果を待っていた。いわゆる「待ち会」というやつだ。

 午後5時にバーに入ってから、私はひたすらしゃべり続けた。もちろん、人生初の文学賞候補に緊張していたのもあるが、落選という可能性から目を背けたい、というのが本音だった。

 私が持ちネタを披露し、笑い声の余韻が消えると、ほんの少しの間、沈黙が訪れる。神輿(みこし)に担がれた本人が無理に話している分、その静けさはどこか人工的で、落ち着かないものになった。

 場が静まり返ると必ず、編集者たちの目が、テーブルの上にある私のスマートフォンに向けられる。受賞しても、落選しても、この電話が鳴るのだ。選考会は生ものなので、いつ終わるかは誰にも分からない。突然着信する電話が、運命を決める。

 5時半が過ぎたころ、バーの電話が鳴った。私を含め、全員がビクッと肩を震わせた。直後にそれぞれから「おぉ」という意味を成さない言葉が漏れ、苦笑いが連鎖した。待ち会は本当に心臓に悪い。

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