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【書評】文筆家・木村衣有子が読む 『かぼちゃを塩で煮る』牧野伊三夫著 生き方に溶け込んだレシピ

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【書評】
文筆家・木村衣有子が読む 『かぼちゃを塩で煮る』牧野伊三夫著 生き方に溶け込んだレシピ

「かぼちゃを塩で煮る」牧野伊三夫著(幻冬舎) 「かぼちゃを塩で煮る」牧野伊三夫著(幻冬舎)

 画家、牧野伊三夫さんの食のエッセー集『かぼちゃを塩で煮る』で、すき焼きの話を読んでいて、この一文が目にとまった。

 「アクを掬(すく)うことは肉質へのこだわりよりも大切だ」

 潔い言い切り。掬うか放っておくか、アクをどう扱うかには人生観があらわれると思っている私は、同意の印にそのページの角を折った。

 北九州・小倉で育った幼時の思い出、旅先、酒場でのエピソードなど、牧野さんが求める旨(うま)いものの舞台は広い。その軸には、食卓の傍らに置かれた炭火がある。

 「夏は羊肉やとうもろこしを焼き、冬は小鍋をかけて湯豆腐やとり鍋などをやる。よほど忙しいときでないかぎり炭火の隣に座り、二、三時間酒を飲む。それが我(わ)が家の晩ごはんである」

 炭火生活は四半世紀にわたるといい、プロフィルにある生年を見ると20代後半からだと分かる。年季が入っている。スイッチでぱちっとつけたり消したりするのは不可能な、得難い熱さと明かりに、牧野さんは自らの生業である、絵を描くこととそのものを重ね合わせている。

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