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【文芸時評2月号】不安定なポジションの妙 早稲田大学教授・石原千秋

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【文芸時評2月号】
不安定なポジションの妙 早稲田大学教授・石原千秋

石原千秋氏 石原千秋氏

 芥川賞が山下澄人「しんせかい」(新潮7月号)に決まった。受賞作が出たことはよかったが、あの候補作の中から受賞作を決めなければならなかった選考委員には同情を禁じ得なかった。今期はほかに優れた作品がいくつかあったのに、なぜかそれらをすべて外した候補作が発表されてあぜんとした。いまの芥川賞は、その時代に最も優れた「新人」の作品を決めるというよりも、その時代の「新人」の文学を記録するという性格が強くなってきている。つまり、「優れた作品」が激減している。そこで問いたい。あの候補作をこの時代の「新人」の文学として記録に残すと本気で考えたのか、その自覚があったのかと。まず候補作を決めるシステムをすべてリセットしてほしい。

 国語国文学科としての「導入教育」科目として、大学1年生に「基礎演習」を置いてある。今年は武者小路実篤『友情』を読んだ。杉子という女性が、ヨーロッパに渡った大宮という新進作家に、手紙で猛烈にプロポーズするのだが、その言葉が当時の「新しい女」を批判するものとなっている。僕が、こういう言葉でプロポーズの意志を伝えたことの意味を考えてはどうかと提案したら、男子学生は、いやプロポーズの意志が伝わったことが重要だと譲らない。なかなか結構なことである。そこで僕が彼に、「『あなたの財産で私を一生食べさせてください』と言われたらどう?」と言ったら、教室のあちこちから「言ってみたい~」という女子学生の大きな声が聞こえた。ワセジョも、1年生だとこんな具合なのだ。

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