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【話の肖像画】演出家・鈴木忠志(1)演劇で問う国のあり方

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【話の肖像画】
演出家・鈴木忠志(1)演劇で問う国のあり方

演出家・鈴木忠志氏 演出家・鈴木忠志氏

 〈今年10月、ポーランド南西部ヴロツワフで開催された国際演劇祭「第7回シアター・オリンピックス」の開幕作品として、主宰する劇団SCOTが「トロイアの女」を上演した。ギリシャ軍に滅ぼされ、国から連れ去られるトロイアの女の運命を、日本の敗戦に重ね、演出したギリシャ悲劇。ヨーロッパでは約30年ぶりの上演だったが、難民問題に直面するヨーロッパの観客が「現代にふさわしい」と称賛した〉

 今年、シアター・オリンピックスをやったヴロツワフは、ドイツ領だったのを戦後、ポーランドが取り返した都市です。祖国を失う悲劇を、肌感覚で見る観客がいる。彼らにとって演劇は、切実な現代の一部。日本人にはその感覚がない。問題意識といっても、男女間の不和や、政治家の不祥事という程度。民族同士の争いや、国家存亡の危機が、演劇の主題になるという意識が薄い。

 現代は、あらゆる面で戦争の世紀になっている。“テロ”と言っても、実態は戦争です。トロイアは戦争で負け、焼き払われ、国がなくなってしまった。日本は敗戦しても国は滅びなかった。ヨーロッパ人は鉄条網と検問所を備えた「国境」に接し、身体感覚的に「国」という実感が強いんです。

 その彼らが今、国のあり方をもう一回、考え始めている。英国のEU離脱や右翼の台頭もあって、向こうではそれが一番の話題なんだよね。演劇は、国が危機に瀕(ひん)したとき、栄えます。そこから議論が始まるから。でも日本は国家についての意識が、肯定するにしろ否定するにしろ、希薄。将来、国家として生き残り、世界から信頼されるには、国について絶えず考える感覚がないと駄目です。

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