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【書評】文筆家、木村衣有子が読む『東京甘味食堂』若菜晃子著 滲むしみじみとした情緒

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【書評】
文筆家、木村衣有子が読む『東京甘味食堂』若菜晃子著 滲むしみじみとした情緒

「東京甘味食堂」若菜晃子著(本の雑誌社) 「東京甘味食堂」若菜晃子著(本の雑誌社)

 食堂、その言葉から私がぱっとイメージするのは、わいわいと賑(にぎ)やかな情景だった。たしかにそれも間違いではない。けれど、編集者の若菜晃子さんが辿(たど)る食堂は、同行者がいなくとも気詰まりではなく、ひとりひとりが世間の一角を占めながら心静かに食事をとれる場所だ。「甘味食堂」ならではの過ごしかたなのかもしれない。この本は、タイトルどおり、東京23区の甘味食堂を50軒以上巡ったエッセー集だ。

 おいなりさん、醤油(しょうゆ)ラーメンなどのやさしい印象の軽食と、あんみつやパフェといった日本的なデザートが共存するのが甘味食堂だと、若菜さんは定義付けている。それだから、例えば目白「志むら」ではこんな逡巡(しゅんじゅん)が生じる。

 「お弁当にはプラス三百円であんみつがつけられるのだが、後で和菓子を買って帰ることを考えると、一日に何度も甘いものを食べてはいけないだろうと今日のところは自粛する。『志むら』ではいつもそうやって自粛するので、おまけのあんみつってどんなのかなといつも思う」

 日常にある、のどかな謎。メニューを全部制覇しなきゃ、などという焦りはここにはない。

 店主から聞いた話、例えば店の歴史などにふれている箇所もあるけれど、ほとんどは、若菜さんが食したもの、そして、席から眺めた風景の描写にページが割かれている。情報よりも、情緒。

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