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【話の肖像画】作家・原田マハ(5)「作品に会いに行きたくなった」といった読者の感想が最もうれしい

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【話の肖像画】
作家・原田マハ(5)「作品に会いに行きたくなった」といった読者の感想が最もうれしい

ポール・セザンヌ「画家の夫人」1886年頃 Bequest of Robert H.Tannahill ポール・セザンヌ「画家の夫人」1886年頃 Bequest of Robert H.Tannahill

 昨年1月に米メトロポリタン美術館で、オルタンスの肖像画ばかりを集めた「マダム・セザンヌ」という展覧会を見ました。ずらり並んだマダム・セザンヌ像の中で、私が最も好きだった作品が、このデトロイト美術館所蔵の「画家の夫人」なんです。しばらくその前から動けなかったのですが、ほとんど実物大の絵画なので、オルタンスと見つめ合い、会話をしているような感覚でした。

 「画家の夫人」はもともと、収集家のロバート・タナヒルが自邸のリビングに亡くなるまで飾り、後に美術館に遺贈した作品でもある。小説「デトロイト美術館の奇跡」の執筆にあたり、いろんな文献を調べましたが、彼がどんな経緯でこの絵と出合ったのかなど、わからないところはフィクションで書かせてもらいました。タナヒルが絵の中のオルタンスと交わす心の対話は、私のつぶやきでもあります。

 自分の小説は、読者にとっての「良き入り口」であり、「良き出口」であってほしい。例えば、美術館は敷居が高い、アートには興味がないという方も、小説ならちょっと面白そうだな、読んでみようかなと思ったら、どうかドアを開けてフィクションの世界に入ってきてほしい。そしてもし、読んで面白かった、興味がわいたと思えたら、今度はドアを出て、現実の展覧会や美術館に足を運んでほしい。私の小説が、アートと読者をつなぐ一つのメディアであればと思っています。

 「展覧会に出掛けたくなった」「作品に会いに行きたくなった」といった読者の感想が最もうれしい。私の作品は、そうなってこそ完結するのです。(聞き手 黒沢綾子)=次回は日本医師会会長の横倉義武さん

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