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吉田修一さん新作「犯罪小説集」 弱さが持つ強さと向き合う

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吉田修一さん新作「犯罪小説集」 弱さが持つ強さと向き合う

収録作のタイトルは「凝っている」という歌舞伎の演目調に。「それらしく劇的な見せ場も意識して書いた」と話す吉田修一さん(山崎冬紘撮影) 収録作のタイトルは「凝っている」という歌舞伎の演目調に。「それらしく劇的な見せ場も意識して書いた」と話す吉田修一さん(山崎冬紘撮影)

普通の先に…

 現実の事件を基に紡がれた5編を読み進むうち、罪を犯した人間の言動が、何も特別ではないことに気づく。登場人物は普通の日常を送り、いつの間にか引き返せない位置にいる。

 元プロ野球投手の転落をつづった「白球白蛇伝(はっきゅうはくじゃでん)」は象徴的だ。現役時代に奪三振王にも輝いた早崎は引退後もかつての栄光を引きずり、生活レベルを落とせない。無理な借金を重ねてまで酒席でおごり、妻には豪華な服を着せる。特別なプロ選手だったというプライドと現実との落差は広がり、気づけば罪の入り口にいる。

 「(罪を犯した人の中で)何かが急に変わり、特別に足を踏み外した感じはない。ただ普通に歩き出した一歩がわずか数ミリずれている。だから本人は普通のつもりでも先へ行けば行くほどずれていく。書き終えて全部がそんな感触だったんですよね」。描かれた罪はそれだけに余計悲しくやるせない。踏みとどまれない人間の弱さをうらめしくも思う。でも、読後の印象は一色ではない。

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