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【10万年後の安全-「信頼」と「責任」の意味(2)】地震大国ニッポンで核のごみは埋められるか

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【10万年後の安全-「信頼」と「責任」の意味(2)】
地震大国ニッポンで核のごみは埋められるか

 日本は世界有数の地震大国である。11月22日、福島県沖を震源とするマグニチュード7.4の巨大地震が起きた。東京電力福島第一原子力発電所にも到達した津波は、誰もがあの忌まわしい記憶を呼び覚ましたのではないだろうか。

 事故から5年。わが国では原発再稼働がようやく進みつつある。だが、事故の後遺症ともいえる「原発アレルギー」はいまだ日本人の心の奥底にある。「脱原発」か否か。この二者択一の議論にばかり注目が集まる一方で、議論のテーブルにさえつけない重要課題もある。原発から出た高レベル放射性廃棄物、そう「核のごみ」をいかに処分にすべきかという議論である。

「トイレなきマンション」

 そもそも核のごみとは、使用済燃料からウランとプルトニウムを取り出す「再処理」を施した後に残る廃液のことだが、いま我が国に核のごみがどれくらいあるかご存じだろうか。

 崩壊熱を発生させる使用済燃料は、原子炉建屋内にある貯蔵プールで数年間冷やした後、再処理工場へ送られる。日本はこれまでこの再処理をフランスとイギリスに委託してきたが、残った廃液は放射性物質を閉じ込め扱いやすくするためにガラスと混ぜた「ガラス固化体」にしてから戻されている。このガラス固化体は極めて強い放射線を出す。

 ちなみに100万キロワット級の原発1基が1年間稼働した場合、約26本のガラス固化体が発生するとされる。使用済燃料の総量をこのガラス固化体に換算すると、既に再処理された分も合わせ、約2万5千本にも上る。当然のことながら原発が稼働し続ける限り、この量はどんどん増え続ける。

 国はガラス固化体について、30~50年間冷却保管した後、地下300メートルより深い地層に埋める方針を決めている。ただ、こうした処分方法は決まっていても、埋める場所がどこにも見つかっていない。原発が「トイレなきマンション」と揶揄されるゆえんだが、この行き場を失った核のごみをどこに埋めればいいのか、日本に限らず世界各国が頭を悩まし続けている。

 だが、この悩ましい「課題」を世界に先駆けて解決させようと動き出したのが、北欧フィンランドである。同国西岸のエウラヨキ市にあるオルキルオト原発近傍で近く、世界で初めてとなる核のごみの最終処分場の建設が始まり、その行方に注目が集まっている。

 強い放射能を帯びた核のごみ、その影響が弱まるまでにかかる時間はおよそ10万年。むろん、人類史上これほどの歳月に耐えられる構造物が存在した例はない。最終処分場はいわば途方もない人類の未来と向き合う施設なのである。

オルキルオト原子力発電所に隣接する最終処分場

オルキルオト原子力発電所に隣接する最終処分場

「2022年にも稼働」

 世界初の最終処分施設として注目されるフィンランドだが、これまで調査施設として一部が稼働しており、地下450メートルへと続く坑道において岩盤や地下水のデータなどの収集や掘削による影響について調査が行われてきた。この施設は「オンカロ」と呼ばれ、フィンランド語で「洞窟」を意味する。

 現在までに完成しているのは、全長5キロの坑道と作業員の移動や換気などのために掘られた1本の立て坑、作業員の避難場所となる施設や試験孔と呼ばれる実験施設。坑道は幅、高さともに5メートルほどあり、大型トラックでも十分行き来が可能なトンネルと表現した方が分かりやすいかもしれない。

 フィンランドでは、この施設を拡張させて、2022年から核のごみの処分を始める。計画では100年後に封鎖する予定だ。現在、政府により承認されている処分容量は6500トン。現在フィンランドで稼働中の原発4基と建設中の1基を50~60年運転した場合に発生する核のごみの量に相当する。

 ただ、現時点では5500トンの廃棄物を埋める想定になっており、この処分量の場合、坑道の総延長は42キロ、処分エリアの面積は2~3平方キロメートルになる。実際に核のごみを埋める際には、純度の高い円筒形の銅製容器と鋳鉄製容器からなる二重構造の「キャニスタ」に封入して処分する。銅が腐食に極めて強い金属である特性を生かした技術である。

 この壮大な事業を実施するのは、フィンランドの電力2社が出資するポシヴァ社。処分費用の総額は35億ユーロ(約4600億円)と試算しているが、これまでに2社が積み立てた政府所管の基金から捻出し、一部は一般の電力料金にも上乗せして徴収されている。

オルキルオト原子力発電所に隣接する最終処分場

フィンランドの最終処分場のイメージ 提供:ポシヴァ社

「不都合な真実」

 フィンランドで計画が進む地層処分は、現在の科学力では最も信頼性の高い技術とされ、日本でも北海道と岐阜県にある研究施設で調査研究が行われている。ただ、フィンランドは日本と異なり、めったに地震が起こらない国である。しかも、北欧3国があるスカンジナビア半島の地盤は、世界で最も古い19億年前にできた花崗岩質の固い岩盤で覆われており、これまでの地質調査では少なくとも10億年以上、地殻変動が確認されていない。他方で、北に位置するがゆえに氷河の影響を大きく受ける地域なのである。

 ポシヴァ社の地質学者、アンッティ・ヨウツェン氏は言う。「この一帯はおそらく10万年以内に次の氷河期がやって来て、分厚い氷の層に覆われているでしょう。ポシヴァ社は氷河による地盤の沈降や圧力、その後の気温上昇に伴う地下水の発生など、あらゆるシナリオを想定して、それらに耐え得る技術を確立した。10万年後もきっと核のごみが安全に処分されていると思います」

 なぜ10万年後の安全をそこまで自信たっぷりに言い切れるのか。当たり前だが、「10万年後の未来」を確実に予測できる人間なんているはずがない。その辺りの疑問をしつこく彼にぶつけてみると、ふうっとため息をついた後、強い口調でこう答えた。

 「もちろん、私だって10万年後を100%予測することなんてできません。でも、将来のことは分からないので放っておけばいいというのも違うんじゃないでしょうか? 自分たちの国で出た核のごみは自分たちの手で片付ける。道義的に考えれば、それが一番理にかなっていると思います」

オルキルオト原子力発電所に隣接する最終処分場

ポシヴァ社の地質学者アンッティ・ヨウツェン氏

 わが国で地層処分の議論がなかなか進まない理由に、「地震大国」であることへの懸念がある。確かに、自然現象が相手である以上、不確実性は必ずつきまとう。だが、地上の建物が崩壊するような巨大地震が起きた時でも、地下の固い岩盤はほとんど揺れないため、それほど大きな打撃を受けないという事実はほとんど知られていない。いや、むしろ核のごみを地上で保管するよりも、埋設した方が「安全」だとされるゆえんなのだが、こうした事実は今の日本人には届きにくい。

 もし、いま原発ゼロが日本で実現したとしても、行き場を失った大量の核のごみは残ったままである。厄介な問題であることに変わりはない。この「不都合な真実」から目を背けたくなる気持ちだって分からなくもない。だが、それは将来世代に解決を委ねるという、現世代にとって都合の良い論理でしかないのもまた事実である。

 10万年後の安全を語ることと、何もせずに放置することと果たしてどちらが「無責任」なのか。それを判断するのは、私たち日本人自身であることを忘れてはならない。(産経デジタル編集部)

日本の地層処分に関する詳しい情報はこちら

提供:NUMO(原子力発電環境整備機構)

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