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【至誠の人 揖取素彦物語(63)】中村紀雄 博徒上がりの大商人

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【至誠の人 揖取素彦物語(63)】
中村紀雄 博徒上がりの大商人

 「煙突が、あんなに多くありますね」

 寿が街並みを見ながら、言った。

 「世界に知られた糸の街マエバシの姿だ。日本で最初の器械製糸場も、あの中にある」

 楫取は何かを考えている風であった。

 実は、楫取は妻の慰安を兼ね前橋の実態を知りたいという目的があった。

 その晩、楫取の宿舎を一人の生糸業者が訪ねた。広瀬川の近くで生糸会社をしているという男は、糸に関する面白い話を、と求められて語り始めた。

 「この街には金山を掘り当てたような男が何人もおります。代表格が下村善太郎と申す男でございます」

 「名前は聞いているが、深いことは何も知らない。面白い話があるのですか」

 楫取が興味を示すと、側の寿も身を乗り出す仕草(しぐさ)を示した。

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