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【大学ナビ】未来のAI・IoT時代に向き合う

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【大学ナビ】
未来のAI・IoT時代に向き合う

國吉康夫・東大次世代知能科学研究センター長=東大・本郷キャンパス(関厚夫撮影) 國吉康夫・東大次世代知能科学研究センター長=東大・本郷キャンパス(関厚夫撮影)

 われわれの生活を劇的に変えてゆくであろう人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)。その全貌についてはいまだ計りがたい部分も多いのだが、大学側はすでに“AI・IoT時代”の到来に向けて動き出しているばかりか、その先頭に立って未来を切り開こうとしている。(編集委員 関厚夫)

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 ■東大…理文連携し次世代知能開発へ

 東京大学という国内のAI研究のトップランナーは今、ますますそのスピードを加速している。

 先月初旬、東大の五神(ごのかみ)真総長やNECの新野隆社長らは報道陣の前でにこやかな表情で手を重ね合った。世界の最先端をゆく研究者を結集し、革新的な共同研究を行うことを目的とした「フューチャーAI研究・教育戦略パートナーシップ協定」を締結したさいの記者会見でのことである。

 そして今月1日、次世代知能科学研究センターが発足した。情報理工学系研究科が責任部局となり5部局が連携した組織なのだが、石川正俊・同研究科長によると「小さく産んで大きく育てる」。今後、そのほかの多くの部局との連携・協力関係を構築し、「現状の人工知能学の枠組みを超えた、真に人間のためになり、将来の社会を駆動する、新たな知能科学体系を創出」してゆくという。

 そこでの焦点は「動的実世界知能」と「人間的人工知能」。この耳慣れない言葉のうち、まず前者についてセンター長の國吉康夫・同科教授は、こう説明する。

 「動的とは、どんどん変化するという意味。外の変化に応じて柔軟に変化できる人工知能のことで、実はそれは生物的な知能の原理でもあります。また先日、囲碁ソフト(人工知能)『アルファ碁』がトップ棋士に勝利したことが話題になりましたが、囲碁の世界は盤面のなかに閉じており、実世界とは言えません。実世界とは、何が起こるかわからない、われわれがいま生きている世界のことです。その中で賢く行動するためにはこれまでの人工知能では少し不足していると思うのです」

 そして人間的人工知能。これは人間の心や価値観、倫理をも理解する次世代知能なのだが、その開発には理系だけではなく、文系の協力が不可欠になるという。「AIには『理屈だからこれでいいんだ』としてとんでもない判断をする可能性があります。そこで人間の価値観にあった判断を保証するためには人間そのものについての理解という人文社会系の学問の知見が必要になります。今後、理系と文系がともに研究し、一緒にシステムを開発するというところまで踏み込みたいと考えています」

 未来の“AI社会”における文系の貢献はこれだけにとどまらないという。國吉教授は続ける。

 「今後、AIの影響で社会自体が劇的に変わってゆくかもしれない-。そんな発想に立ち、これからの世界をどうつくるべきかということを議論し、デザインを打ち出すことが求められることになるでしょう。その過程において人文社会系の方々が非常に重要な役割を果たすことを確信しています」

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 ■成城大…IT社会で光る“文系人”育成

 文系の総合大学であり、旧制高校時代を含め、文芸や政治の世界に多彩なOB・OGを輩出してきたことでも知られる成城大学(東京都世田谷区)。AIやIoTに関してはともすれば、理系の独壇場のように思われがちだが、杉本義行副学長は「理系の人材が必要だと言われる時代だからこそ、かえって多くの人文社会系の人材が必要になってくるし、社会に貢献できることも多々あるのではないかと考えています」と話す。

 IT(情報技術)化が急速に進むなか、文系の視点で科学を考える、あるいは科学的視点で文系の専門分野を考えることができる人材の育成をめざす-。成城大はすでに学年や学部を超えて履修することができる「データサイエンス科目群」を開講。その一つに日本IBM社が授業を担当する「データサイエンス概論」がある。IoT全般についての知識やビッグデータの活用法が学べるほか、講座を通じてコンピュータープログラミングの知識がなくとも簡単なアプリケーションソフトを作成できるようになるという。

 「それだけではありません」と文芸学部マスコミュニケーション学科の標葉(しねは)隆馬専任講師は言う。

 「たとえばわが学科では社会調査や統計の基礎が必修科目になっています。学生にすれば『数学がいやで文芸学部に来たのに…』。それに対して『いや、今どきに生きていて逃げられると思うか』といったところでしょうか(笑)」

 標葉講師によると、文系の学生がAIやIoT、データサイエンスと関わってゆくさいにまず大事なのは大学の中でそれらに接触する機会を増やすということ。「そうすると慣れていって、見方がわかってくる。本学では学部を問わず4年間のうちに何やかやとそんな機会があります」

 さらに大事なことがある。

 「AIやIoTによって、ライフスタイルや医療、場合によって遺伝情報など多様な情報が結び付けられ、分析され、個人に応じたサービスに還元される時代がやってきます。そこで起きる問題というのは科学的な性質だけではなく、社会・経済、法律、また倫理的な性質を帯びる。そのとき、問題を正しく捉えて向き合うためには、データの扱いに慣れているということとともに、これまで培われてきた伝統的な人文社会系の学問分野の知見や教養をもつことが必要不可欠になると思います」

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