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【書をほどき 知をつむぐ】逃げられない社会から 学習院大学教授・赤坂憲雄

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【書をほどき 知をつむぐ】
逃げられない社会から 学習院大学教授・赤坂憲雄

『人類史のなかの定住革命』西田正規著(講談社学術文庫・960円+税) 『人類史のなかの定住革命』西田正規著(講談社学術文庫・960円+税)

 ■『人類史のなかの定住革命』西田正規著(講談社学術文庫・960円+税)

 なぜ、逃げてはいけないのか。そんな、13歳の少女の問いかけの声に出会(であ)った。「逃げ」と題された、宮城県名取市の森田真由さんの詩である。産経新聞の7月28日の紙面に掲載されたものだ。

 逃げて怒られるのは/人間ぐらい/ほかの生き物たちは/本能で逃げないと/生きていけないのに/どうして人は/「逃げてはいけない」/なんて答えに/たどりついたのだろう

 この少女の問いにたいして、いかなる応答が可能なのか。かつて子供たちが、いじめをハブとひそかに呼んでいたことを思いだす。ハブ、つまり村八分だ。学校という、教室という、逃げられないムラのなかで足掻(あが)き苦しむ子供たちの声ではなかったか。村八分という古さびた、共同体を維持するためのシステムはいまも、姿を変えながら、われわれの社会の深部にしっかり根を下ろし、存在する。

 西田正規の『人類史のなかの定住革命』によれば、およそ1万年前に、ユーラシア大陸のそこかしこで、遊動から定住へと大きな転換が起こったという。それが「定住革命」である。そのとき、人類は「逃げられる社会」から「逃げられない社会」へと転換したのだ、という。この列島に暮らした縄文の人々は、定住を基調としながら、狩猟・採集・漁労を組み合わせた暮らしと生業を営んでいたようだ。記憶しておくことにしよう、この列島では、定住という生活スタイルは農耕とともに始まったわけではないことを。

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