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【至誠の人 揖取素彦物語(62)】中村紀雄 兄の「最期」を説く

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【至誠の人 揖取素彦物語(62)】
中村紀雄 兄の「最期」を説く

 明治9年の春のある日、楫取夫妻は前橋の利根川の岸辺に立っていた。前方に赤城、榛名、妙義の上毛三山がそびえ、赤城と榛名の間には白銀に輝く谷川の連山が偉容を示し、利根の流れはそこから一気に流れ下って来るように見えた。激流は轟々(ごうごう)と音を立て、切り立つ岩壁は水に攻められ、削り取られ、後退を余儀なくされてきた長い歴史を物語っていた。

 「これが坂東太郎だ」

 「恐いようでございますね」

 「難治の県の民情を示すようだな」

 「県庁はどこになりますか」

 「秘(ひそ)かに伝えられるところでは高崎らしい。しかし、この民情を鎮めるには…」

 楫取はつぶやきながら激流を見つめ、そして、遥(はる)かに広がる街並みに視線を移した。

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