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【至誠の人 揖取素彦物語(62)】中村紀雄 兄の「最期」を説く

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【至誠の人 揖取素彦物語(62)】
中村紀雄 兄の「最期」を説く

 寿の話に、人々は一言も聞き漏らすまいと耳を傾けた。獄舎に不釣合いな端座した女人の姿は、阿弥陀さまの再来のように見えた。

 話が終わると、拍手が湧き、すすり泣く声が聞かれた。寿は胸を詰まらせた。行薫(ぎょうくん)は人々の熱い純粋な心に大きな驚きを覚えた。

 寿は難治の県とされ、荒い民情といわれた人々の真実に触れた思いであった。

 間もなく熊谷県は群馬県となり、楫取夫妻が前橋に赴任する日が近づいていた。寿の胸にある難治の県への不安は薄らいでいた。しかし寿の細身の身体には病魔がにじり寄っていた。

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