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【書評】美術ジャーナリスト・藤田一人が読む『人工地獄 現代アートと観客の政治学』 参加型アートの課題とは…

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【書評】
美術ジャーナリスト・藤田一人が読む『人工地獄 現代アートと観客の政治学』 参加型アートの課題とは…

『人工地獄』 『人工地獄』

 例えば、ある手引きに従って人々が街中を散策し、さまざまな物事を発見、体験する。例えば、街中で突然1人が踊りだし、ドキッとする周囲も巻き込んで不思議な空気を演出する。例えば…。

 芸術家と鑑賞者の垣根を取り払い、協働しながら魅力的な芸術状況を作り上げる。昨今の現代美術シーンで隆盛ないわゆる“参加型アート”。本書はその歴史的展開と社会的存在意義、今日的課題を、豊富な具体例を挙げ、克明な分析を駆使して論じられる。

 著者は「人々の存在が芸術的な媒体と素材の中心的要素となる」と“参加型アート”を定義。その発端を20世紀初めのイタリアの前衛芸術運動、未来派の「夜会」とする。そこでは過激な政治的主張と常識を逸脱した芸術的パフォーマンスが観客を挑発し、怒りの爆発を誘った。そしてその手法はファシズムの扇動に用いられたという。以後、社会主義体制のソ連では集団劇という大衆的プロパガンダに、フランスではダダとシュルレアリスムの自由の希求に、“参加”という概念は生かされた。ちなみに本書の題名は、シュルレアリスムの主導者、アンドレ・ブルトンの著述から取られている。

 東西冷戦時には西側の左翼的文化運動と、東側の芸術家による私的表現の方法として、さらに社会主義の崩壊と新自由主義の台頭による、新たな共同体の模索と格差社会へのアプローチとして、幾多の“参加型アート”が世界中で展開されてきた。

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