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【産経抄】日本語は天才である 8月4日

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【産経抄】
日本語は天才である 8月4日

 昨日、訃報が届いた翻訳家の柳瀬尚紀さんには、『日本語は天才である』と題した著作がある。その事実に気づいたのは、40年以上前の翻訳作業中だった。

 ▼ある日の朝早く、まだ空に残っていた丸い月に太陽が声をかけた。「You are a Full Moon.」。すると、月が怒り出した。「You  are a fool , Moon.」と、聞き間違えたからだ。「きみは満月だ」「きみはバカだ、お月さん」。英文解釈としては満点である。

 ▼柳瀬さんは、お月さんが聞き間違えた理由まで翻訳しようとして、考え続けた末にふと思いつく。「されば、かの満月か」「去れ、バカの満月か」。日本語は、「されば」という普段は使わない文語的表現を翻訳のために用意してくれていた。日本語が天才である所以(ゆえん)である。

 ▼そんな日本語の力を信じて挑んだのが、20世紀でもっとも難解といわれるジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』の翻訳だった。英語のほか数十カ国語が交じり合い、しかもひとつの言葉にいくつもの意味が含まれている。

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