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【文芸時評8月号】息が詰まるような「正しさ」で評価されがちな村田沙耶香の「コンビニ人間」 早稲田大学教授・石原千秋 芥川賞受賞へのミニ講義

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【文芸時評8月号】
息が詰まるような「正しさ」で評価されがちな村田沙耶香の「コンビニ人間」 早稲田大学教授・石原千秋 芥川賞受賞へのミニ講義

石原千秋・早大教授 石原千秋・早大教授

 太宰治賞を夜釣十六(よづり・じゅうろく)「楽園」が受賞した。福祉系大学に進学しながら、「実習で老人介護の現場を目の当たりにした途端、その仕事で食べていこうという気持ちは一瞬で萎えてしまった」ために、留年して卒業し、やや自堕落な生活を送っている30歳の圭太に、疎遠になっていた母方の祖父・中原政二から突然葉書(はがき)が来て戦争の話を聞くのだが、それは必ずしもこの小説の中心とはなっていない。圭太の日常生活のなかに巧みに埋め込まれている。老人介護の仕事に萎えた圭太が老人から話を聞く皮肉な展開も効いている。九州弁も、いまだ日常に刻み込まれている「戦争」にリアリティーを感じさせる。プロフィルを見ると、夜釣十六は昭和63年生まれの女性。今後が楽しみだ。

 橋本治が、夏目漱石『坊っちゃん』について「悪口小説を書く彼が、読む者をうんざりさせない『芸』を持っていた」と書いている(「いとも優雅な意地悪の教本」すばる)。先の2作品にはまちがいなく「芸」があった。

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