産経ニュース

【書評】詩人、文月悠光が読む 『繭』青山七恵著 滲み出る男女の欲望

ライフ ライフ

記事詳細

更新

【書評】
詩人、文月悠光が読む 『繭』青山七恵著 滲み出る男女の欲望

『繭』青山七恵著(新潮社・1800円+税)

 ■不安定な関係からの脱出

 本書は美しいと共に、とても生々しい小説だ。繊細な描写の中に、登場人物の思惑や欲望が少しずつ染み出していく。物語の中心に据えられているのは、2組の男女。美容師の舞は、「パートナーは対等であるべきだ」という強迫観念に縛られている。夫のミスミに暴力を向けるのも、彼に守られている状態を脱して、対等な関係を結ぶためだ。しかし、舞の〈渇き〉は癒えることがない。〈もつれあっている二人の体から、わたしは自分だけが排除されているように感じる〉。

 舞と同じマンションの住人である希子も、恋人の道郎と不安定な関係を結んでいる。舞が対等な関係に執着するように、希子は自分の幻想で作り上げた恋人像に溺れている。道郎は希子の家に来るたび、手製の白いきんちゃく袋を残して去っていく。繭のようなそれは、ひとつの場所に居着くことのない彼の〈つぐない〉にも見えた。〈守ってあげられるのはわたしだけだよ〉と、希子は訴え、彼を自分の元に縛り付けようとする。

「ライフ」のランキング