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英作家、カズオ・イシグロさん「忘れられた巨人」 10年ぶりの長編

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英作家、カズオ・イシグロさん「忘れられた巨人」 10年ぶりの長編

老夫婦の愛の物語でもある。「ラブストーリーとは一緒になった後の難問を描くものだと思う」と話すカズオ・イシグロさん (長尾みなみ撮影)

 ■埋められた記憶と向き合う

 英のブッカー賞作家、カズオ・イシグロさん(60)が10年ぶりの長編『忘れられた巨人』(土屋政雄訳、早川書房)を出した。アーサー王伝説と地続きにあるファンタジーを装った物語には、社会や個人が封印した苦い記憶とどう向き合うべきかという普遍的な問いが潜む。今月来日したイシグロさんに新作の背景を聞いた。(海老沢類)

                   

 「ある考えをどう表現するか。舞台はそのためのツール」。歴史を遡(さかのぼ)り悪鬼や妖精といった超自然的存在も出す。ファンを驚かせた設定も必然だったと話す。「神話的な舞台を選ぶことで広い状況に適用できるメタファーになる。ここで書いたパターンが歴史上繰り返されているのだと」

 異民族を撃退した伝説のアーサー王亡き後、6、7世紀ごろのブリテン島。小さな集落で差別を受けて暮らすアクセルとベアトリスの老夫婦は息子を探す旅に出る。道中、勇敢な戦士や少年が加わり、アーサー王に仕えた老騎士にも出会う。表向きは平穏な旅路だが人種や信仰をめぐる火種がくすぶる。読み進むうち物語の奇妙な手触りに気づく。老夫婦は自分たちが冷たい仕打ちを受ける原因はもちろん、息子の顔や声、いなくなった理由すら思い出せない。山にいる竜の息がもたらす「霧」に世界が覆われ、人々はついさっきの出来事も忘れてしまう集団的な健忘症にかかっているのだ。

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