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スペインで進化し続ける乾貴士を支えた、小さな街のサポーターとチームの愛情

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スペインで進化し続ける乾貴士を支えた、小さな街のサポーターとチームの愛情

【追記】かけがえのない3年間を過ごし、新たな挑戦へ

 充実した日々を過ごしていたものの、乾とエイバルとの契約は2018年6月末で終了。その後の去就がスペイン各誌で大きく取りあげられ、それもまた日本人選手として初めてのことだった。他クラブも欲しがる選手となり、どこへ行くか選べる立場となったのだ。エイバルでの日々の進化が、新たなチャンスを引き寄せた。

 注目が集まるなか、4月下旬、乾はエイバルを退団すると明言した。手にいれた居心地のよい環境を手放し、新たなステージへと挑む。

 “エイバルの乾”にとってのホーム最終試合となったのは、5月12日に行われたラス・パルマス戦。ゴール裏にはいつも通り日本国旗が飾られ、北スタンド最前列には“INUI ありがとう”という日本語のメッセージが書かれた横断幕が掲げられていた。いずれも持ち主はエイバル市民である。

 そんなムードのなか、乾は先発フル出場。前半5分に左サイドでボールを受けると、ゴール前に走り込んできたMFオレジャナに絶妙なスルーパスを送り決勝点を演出した。

 また、後半には乾がイエローカードをもらった際に大きな拍手とINUIコールが起こるひと幕も。少々強引ではあったけれど、最後まで続いた忠誠心にサポーターたちは湧いていた。

 試合後のセレモニーでは仲間に胴上げをされ、胴上げが終わるとふざけて蹴られるというエイバルにありがちな光景に笑いが起こる。そして、“INUI ありがとう”の横断幕をもったファンに駆け寄りスパイクをプレゼント。バスクの田舎町のアイドルになった日本人は、去り際まで律儀だった。

 記者席に来ると、エイバルでの時間を振り返りこう語った。

 「本当に、この3年間は一生の宝物になると思います」

 サポーター、チームメイト、監督、スタッフ、すべての人に恵まれたという気持ちはずっと変わらない。エイバルでの出会いが自分を成長させてくれたと、改めて感じているようだった。特に恩師・メンディリバル監督への感謝は尽きない。

 「いままで出会ってきた監督のなかでは一番の監督。距離感も日本ではありえないくらい近いですし、本当に監督なのかなというくらい優しくてフレンドリー。サッカーも、人としての行動も、発言も、本当に素晴らしい人です。この監督に3年間教わったことは、自分の人生を変えたというくらい大きな出来事でした」

 チームについても、以前のコメントと同じく「自分がいままで出会ってきたチームのなかで一番」と話す。それでも出ていくのには、ずっと憧れていたスペインサッカーへの好奇心が溢れる乾こその理由がある。

 「もちろん、このチームでキャリアを終えるという考えは自分のなかではありました。でも、メンディリバル監督みたいな人がスペインにはいっぱいいるかもしれないと思いましたし、自分がやりたかったスペインに来たなら1チームで終わるのはもったいないと決断しました。この移籍が正解となるかどうかは自分次第。エイバルに残っていた方がいいと言う人もいるかもしれないけれど、自分は常に進んでいきたい。チャレンジをしていきたい」

 純粋な向上心から出た答えだった。夢のスタートをきってから3年、乾貴士のレベルアップはまだまだ続いていく。

PROFILE

 乾貴士

 いぬいたかし・1988年、滋賀県出身。兄の影響で幼稚園からサッカーを始める。小中学生時代は地元のセゾンフットボールクラブに所属し、その後、野洲高校サッカー部に入部。卒業後は横浜F・マリノスに入団。2008年にセレッソ大阪に移籍。2011年からはドイツ・ブンデスリーガの2部VfLボーフム、2012年から約3年間は1部フランクフルトで活躍。2015年8月から2018年6月まではスペインのSDエイバルに所属。子どもの頃は野球経験もあり、いまでも野球好きで阪神ファン。好きな食べものはハンバーグと魚のホイル焼き。家族は妻と7歳になる息子。

 

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