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スペインで進化し続ける乾貴士を支えた、小さな街のサポーターとチームの愛情

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スペインで進化し続ける乾貴士を支えた、小さな街のサポーターとチームの愛情

 当時のエイバルは、前年に初のリーガ1部に昇格したばかり。実は乾は、エイバルがどこにあるかも知らなかった。それでも、ただただ嬉しかった。

 「ずっと思い続けていましたから、絶対に行きたいという気持ちしかなかったです。フランクフルトとはもう一年契約が残っていたんですけど、強化部と監督に“スペインに行きたい”と自分から伝えに行きました」

 エイバルが提示した推定30万ユーロ(約4000万円)という移籍金はいまでも話題だ。ドイツで活躍している選手の移籍金としてはあまりに格安。しかし、その金額は田舎街の小さなクラブにとっては精いっぱいの史上最高額だった。エイバルとは、1部昇格の最低資金が足りずクラウドファンディング法式でかき集めたほどの超低予算クラブだったのだ。

 「エイバル自体にすごくお金がない年で、当時は基本移籍金がかかる選手は取らないという状況でした。だからよくそれだけエイバルも移籍金を用意してくれたし、フランクフルトもOKしてくれたなと思います。(フランクフルトへ支払う)移籍金額を聞いて、自分の給料を削って、その分を移籍金にしてでもエイバルに行きたいと秋山さんには伝えました。それくらい絶対にスペインに行きたかったので、入れるなら給料いらんかなと。ここで逃したら一生行けへんと思ったんです」

 晴れて、2015年の夏からエイバルでの生活が始まった。バスク地方にあるエイバルは、山に囲まれた人口2万7000人の小さな街。単身赴任である乾は、街で唯一の日本人の住民となった。また、エイバルの選手でエイバルに住むのも乾のみ。エイバルに住む方が街からさらに山奥にある練習場に近いが、大多数がバスク最大の都市、ビルバオに住んでいる。

 旅行者で賑わう美食都市、サンセバスチャンからクルマで約1時間にして、エイバルはひっそりと静か。街にある唯一のホテルは一泊約7000円の3つ星ホテルだし、歩けばすぐ山に入るし、夜遊びするような場所もない。

 街の第一印象を乾に聞くと、こう答えた。

 「ちっちゃいな~!と思いましたね。こんなところなんやと正直思いました。でも、住んでみるとまったく嫌じゃない。むしろ街全体に一体感があるというか、すごく楽です。街の人とはご近所づきあいみたいな感じで、どこに住んでいるかも知られているくらい。よくアニモ!(がんばれ)と声もかけられます」

 自身のSNSでもオフでマドリードに行った帰りに「楽しいオフが過ごせましたー。ありがとう。でも、やっぱりエイバルが一番好きやな(笑) さすが田舎っ子(笑)」といった投稿があったりして、本当に居心地がよさそうなのだ。

 「サッカー以外に興味のあることは?」との質問に、少し考えたあと「ないですね」と答えるキャラクターも、素朴な街に合っていたのかもしれない。

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