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宮崎駿さんの「痛覚」--GQ JAPAN編集長・鈴木正文

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宮崎駿さんの「痛覚」--GQ JAPAN編集長・鈴木正文

 GQ JAPAN編集長・鈴木正文による「ウェブ版エディターズレター」。今週は、人工知能が描くCGを見て宮崎駿氏が放った一言について。

 文・鈴木正文(GQ)

 

 コンピューター・グラフィックスでつくったという、筋肉質のアスリートのような裸形の肉体の図像があった。それは不穏に黒光りする焦げた茶色の皮膚を与えられていて、手足や胴体をくねくねと、あるいはうねうねと、さらには不規則かつ断続的に低くジャンプしたり這うようにしたりして、ときに回転したりなどもしながら、すばやくモニター画面のなかを動いていた。

 そのアンナチュラルな「身体」運用の理由は、できるだけ速く移動するためのもっとも効果的な動きをAI(人工知能)がつくり出したためである、ということらしかった。

 AIとCGの産物であるそれは、開発者にいわせれば「痛覚を持たない」というアドヴァンティッジを有するから、人間の肉体には不可能な関節や筋肉の動きを実現することができる。それゆえ、人間の肉体のように見えながらまったく人間的ではないし、さりとて痛覚を持つことにおいては人間と変わらないほかの哺乳動物のようでもない、それこそ見たこともない、人間的な想像力をこえた不気味な、そういってよければ「おもしろい」身体運用をしてみせることができるのだという。

 じっさい、この怪物的実体は、頭部を3本目の足または手のように使って頭で地面を蹴って駆けたりもしたのである。「頭が大事とかいう感覚もないので」と、開発者は笑いながらいった。その笑いに、「頭が大事」という観念を持つ人間への、憐憫とも侮蔑ともとれるようなニュアンスがあったように感じて、僕はおもわず画面から顔をそむけた。

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