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【メディア今昔】ガンダム「敵メカ」ザク、商品化されないだろうから思い入れがある-大河原邦男“職人”のスキル

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【メディア今昔】ガンダム「敵メカ」ザク、商品化されないだろうから思い入れがある-大河原邦男“職人”のスキル

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アトリエでザクの模型と並ぶ大河原邦男さん。「制約なく、自由にデザインできたのがザクでした」=東京都稲城市 アトリエでザクの模型と並ぶ大河原邦男さん。「制約なく、自由にデザインできたのがザクでした」=東京都稲城市

 ガンダムの隣にはヤッターキング、ザブングルにスコープドッグの姿も…。アニメの人気メカが勢ぞろいして描かれた巨大屏風(びょうぶ)が、北九州市の漫画ミュージアムで開催中の「メカニックデザイナー 大河原邦男展」(1月15日まで)会場でひと際目立つ。これらアニメの製作スタジオはさまざまだが、いずれも同じ一人のデザイナーが生みだしたデザインだ。「メカニックデザイナー」と呼ばれる職業を確立した大河原邦男さん(68)。会場に製作年代順に並べられたメカデザインの変遷は、日本アニメの歴史そのものであることが分かる。(戸津井康之)

アニメ界では異色の“転職組”

 昭和47年にアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」の敵メカのデザインを手掛けて以来、メカニックデザイナーとしてのキャリアは実に44年に及ぶ。その間、数々の傑作を繰り出し、アニメ界に多大な影響を与え続けてきた。同展の図録に寄せた日本を代表するクリエーターたちのコメントを見れば、その偉業が理解できるとともに、“子供向け”という偏見を乗り越えながら日本アニメが切り開いてきた足跡も見えてくる。

 《大河原さんはメカデザイナーを目指していたわけではなかったけれど、職業人としてのスキルを確立して、今日があるのです》

 「機動戦士ガンダム」で総監督を務め、ガンダム生みの親と呼ばれる富野由悠季さんの言葉だ。

 東京造形大学でグラフィックデザインを学んだ大河原さんは卒業後、大手アパレルメーカーに就職。テキスタイルデザイナーとしてキャリアをスタートした。アニメ界では異色の“転職組”だった。

ザクの重厚な甲冑デザインは「背広」

 ガンダムに登場したモビルスーツのデザインについて大河原さんは取材でこう振り返った。「主人公メカのガンダムはスポンサーの玩具メーカーからの注文が多く、デザインする際、数々の制約があったのですが、敵メカは商品化されないので自由にデザインできた。だからザクには特に思い入れがあります」

 ザクはガンダムの敵メカ。重厚な甲冑(かっちゅう)のようなデザインの着想を聞くと、「背広です」と大河原さんは答えた。テキスタイルデザイナーだった研修時代、「毎日背広のデザインを描き続けていました」と言う。ザクの張り出した肩、腰にかけて広がるラインと背広のシルエットが重なる。富野さんは、アニメ界では異色だった“職業人のスキル”を求め、ガンダムのメカデザイナーに大河原さんを抜擢(ばってき)したのかもしれない。その後、ザクは大河原さんの予想を裏切り玩具化され、プラモデルは人気モデルとなった。

流麗なガンダム、重厚なザク、コミカルなメカも

 ガンダム生みの親は富野さん、大河原さんともう一人。キャラクターデザイナーとして主人公のアムロやシャアなど伝説的人気キャラクターを生みだし、現在、漫画家として活躍する安彦良和さんだ。

 《ザクは傑作デザインだと思います。もうひとつはハロ。ハロは最高ですね。手足がありますけど、途中から丸いままで跳ねるようにしました》

 流麗なガンダム、重厚なザク。一方、ハロの外形は“まん丸”。曲線のみでデザインされた愛嬌(あいきょう)あふれる小型ロボットだ。ガンダムで総作画監督も務めた安彦さんはハロを縦横無尽に活躍させ、ロボット戦闘アクションアニメに憩いと潤いを与える役割を担わせた。

 安彦さんをうならせたハロのデザインが示すように、大河原さんは重厚な未来兵器のデザインと並行し、一方でタイムボカンシリーズのヤッターワンなど、イヌなど生きものをモチーフにした愛らしいメカも数多く手掛けてきた。

 《コミカルなメカも描けることは、意外でした。意外ではあるんだけど、大河原さんが描くと立体になるから、絵空事ではなくなるんです》

「メカニックデザイナー」の肩書を持つただ一人の男

 世界的イラストレーターとして知られる天野喜孝さんは、かつて竜の子プロダクション(現タツノコプロ)で大河原さんとともに仕事をした同僚の一人。タイムボカンでのメカデザインを見たときの驚きを隠さず、こう明かしている。

 大河原さんを目標に切磋琢磨(せっさたくま)し、後に続いた後輩たちも少なくない。日本サンライズ(現・サンライズ)入社当時の修業時代、大河原さんの仕事ぶりを目の当たりにし、「洗礼を受けた」と振り返る永野護さんはその代表格の一人。後に「重戦機エルガイム」のメカデザインで注目を浴び頭角を現すが、こんな言葉で大先輩に敬意を表する。

 《「メカニックデザイナー」という肩書を持っているのは、大河原さんただ一人なんです》

 子供向けといわれ続けた日本アニメを、大人を夢中にさせる領域に広げた大河原さんのメカデザインの功績ははかりしれない。

 「美術館での個展をどう思いますか?」と聞くと、「私はアーティストではなく職人だと思っています」。先日、同館を訪れた大河原さんはこう謙虚に語った。そして現在取り組む新メカの構想について楽しそうに教えてくれた。多くのアニメーターが目指す“山頂(いただき)”となり、第一線を引っ張るアルチザン(職人)は今も新たなメカデザインに挑み続けている。 

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