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【学芸員リレーコラム】(1)大河原邦男展北九州上陸 「職人」が手掛けた400点、発想の源は…

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【学芸員リレーコラム】(1)大河原邦男展北九州上陸 「職人」が手掛けた400点、発想の源は…

更新 okt1611210003

 東京・上野でスタートした「メカニックデザイナー 大河原邦男展」。岩手、滋賀と巡回し、いよいよ福岡・北九州に上陸した。11月5日に開幕した本展では、大河原邦男氏がこの40余年で手掛けてきた仕事の数々を、約400点にのぼる設定資料、イラストレーションなどと共にご紹介している。

 400点。言うのは簡単だが膨大な数である。展示室にはみっちりと隙間なく作品が並べられ、ご来場の皆様は息つく暇もない、という感じかもしれない。しかしこの大量の展示品も、これまで大河原氏が実際に描き上げてきた全ての制作物を俯瞰すれば、ほんの一部である。ひとつのアニメ作品に数多のデザインを提供し(もちろんその中には採用されなかったものもある)、時には3~4本の作品を同時進行で担当する状況で、およそ2日で1つのデザインを完成させなければならない時期もあったという。

 この圧倒的な数量の作品群に触れて筆者が一番疑問に思ったのは、40年以上に渡って、それらを生み出し続けた発想の源はどこにあるのかということである。

 開幕日に開催したトークイベントで、その謎に少しだけ触れられた。それは現実に存在する様々なものを、メカに転化していくという方法論であった。実際に挙げられたものは、仏像、日本そして西洋の甲冑、彫刻作品、民族衣装といったコスチュームなどなど、多岐に渡る。アニメ業界に入る以前、服飾メーカーで紳士服の企画をしていたことから、背広のラインをアイデアの元にしたこともあったという。また館内を案内した時には、こんな発言もされていた。「松本零士さんのメカデザインも随分参考にしましたよ、メーターとか」(当館の名誉館長は漫画家の松本零士氏で、常設展示で氏の業績を紹介している。氏が描く特徴的な計器類は「レイジメーター」と呼ばれファンに親しまれている。)キャリアのごく初期段階で動物や昆虫をモチーフにしたメカデザインを手掛けた経験も、その方法論に大きな影響を与えただろう。イベントでは「簡単なことなんです」と前置きしつつ、さらりと話されていたが、膨大なアウトプットのために、垣根なく、さらに大量のインプットをされていたことが伺われた。

 本展では大河原氏を「職人(マイスター)」と称している。多岐に渡る膨大な依頼に、経験と密かに揃えられた手札を華麗に操り、迅速に、そして柔軟に応え続けるその姿はまさに「職人」である。そして日本の豊かなポップカルチャーは、氏のようなマイスターが存在してこそ成り立ち、今日の成熟を見せていると言えるのではないだろうか。そんな大河原氏の生き様に想いを馳せつつ、圧倒的な展示品の数々をご覧いただきたい。(北九州市漫画ミュージアム学芸員:石井茜)

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