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【ステージ 芸】離見の見 後進育てる容赦なき役者魂 代役好演の孫にそっぽ 編集委員・亀岡典子

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【ステージ 芸】
離見の見 後進育てる容赦なき役者魂 代役好演の孫にそっぽ 編集委員・亀岡典子

松谷武判・画 松谷武判・画

 伝統芸能の世界では、親子であっても、師匠と弟子。全身全霊で芸を教え、受け止める濃密な師弟関係にある。しかし子が長じると、ライバルに変貌していく。複雑な関係が生じる。

 昭和55年12月、京都・南座の歌舞伎の顔見世。「曽根崎心中」が上演されていた。徳兵衛は人間国宝の二代目中村鴈治郎、お初は坂田藤十郎(当時、二代目中村扇雀)。ところが公演中、78歳の二代目鴈治郎が体調を崩して休演した。

 代役として白羽の矢が立ったのが、二代目の孫で藤十郎の長男の四代目中村鴈治郎(当時、智太郎)。急遽(きゅうきょ)、東京から呼び寄せられた。鴈治郎は当時、慶応大学の学生。学業優先の家の方針でほとんど舞台に立っていない。徳兵衛を演じたこともなかった。

 だれもが不安と緊張で舞台を見つめる中、鴈治郎は立派に演じ切った。

 終演後、藤十郎と鴈治郎は病室の二代目に、無事に代役を務めたことを報告に行った。ところがベッドの上の二代目は、孫をねぎらうどころか、無言で顔を背けたというのである。

 「すごくかわいがってくれる祖父だったのに、舞台に関しては別だったのでしょうね」と鴈治郎は振り返る。当時、二代目はすでに功なり名を遂げた名優。嫉妬や張り合う必要はない。

 そのエピソードを後年、鴈治郎から聞いたとき、舞台に執着する役者魂を思い知った気がした。

                   

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