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【鑑賞眼】歌舞伎座「十二月大歌舞伎」 玉三郎と中車の名演に涙

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【鑑賞眼】
歌舞伎座「十二月大歌舞伎」 玉三郎と中車の名演に涙

 3部制。各部、休憩を挟んで2作品ずつの配列。

 第1部(午前11時-午後2時15分)。「源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)」から「実盛(さねもり)物語」。源氏に恩を受けた平家の武将、斎藤実盛(片岡愛之助)が後に木曽義仲となる男子の誕生を助けたことで生まれた物語。愛之助の実盛、愛嬌(あいきょう)ある和(なご)みが特色だ。次に「土蜘(つちぐも)」。尾上松緑(おのえ・しょうろく)が僧智籌(ちちゅう)、実は土蜘の精。終始荒(あら)ぶる気配が濃厚で、怪奇性があふれ出た。

 第2部(午後3時-5時47分)。上方落語発祥の「らくだ」は、江戸弁の爆笑劇で定着していたが、歌舞伎座では52年ぶりの関西弁での上演。乱暴者の熊五郎(愛之助)に酒を飲まされた紙屑(かみくず)屋の久六(市川中車(ちゅうしゃ)=香川照之)が日頃の気弱さを急変させて絡み出すくだりがみどころも、愛之助が世話場不得手を露呈して笑いが弾まない。片岡亀蔵が5度目のらくだ役で死人踊り「カンカンノウ」を見せる場が抱腹絶倒。「蘭平物狂(らんぺいものぐるい)」は、松緑が当たり役の奴(やっこ)蘭平で大立ち回り。

 第3部(午後6時半-9時11分)。長谷川伸作「瞼(まぶた)の母」が逸品だ。5歳で生き別れた母を尋ねて二十数年。番場の忠太郎(中車)の前で料理屋水熊の女将(おかみ)となっていたおはま(坂東玉三郎)は、息子は死んだと突き放す。過去だけを頼りに生きてきた忠太郎の情と、過去を忘れたいおはまの利との行き違い。苦悩をまばたきに秘める玉三郎。未練を口元で映す中車。2人の名演に涙を禁じ得ない。最後に玉三郎主演で夢枕獏作の舞踊「楊貴妃」。26日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)

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