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国立劇場十月歌舞伎公演「霊験亀山鉾」 悪の華が映える仁左衛門の芸力

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国立劇場十月歌舞伎公演「霊験亀山鉾」 悪の華が映える仁左衛門の芸力

 元禄時代、伊勢国亀山城下で28年越しに成功したという実説の仇(あだ)討ち。「亀山の仇討」と呼ばれ、浄瑠璃から歌舞伎とさまざまにバリエーションされてきた。本公演「通し狂言 霊験亀山鉾(れいげんかめやまほこ)」は四世鶴屋南北作。平成元年、14年に次ぎ国立劇場では3度目の上演だ。

 みどころは、主人公が相手を次々返り討ちにする展開。大詰めに正義が勝つ常道には至るが、甘さを排した強者の論理の小気味よさが、本水仕様の雨中シーンや凄惨(せいさん)な殺し場、棺桶(かんおけ)破りの仕掛けなど南北作品の特色と相まって、歌舞伎世界に酔わせる。瞬時にしろ、弛(ゆる)みきった時勢へのアンチテーゼとしてカタルシスさえ覚えてしまう。面白い。

 悪逆非道の藤田水右衛門(みずえもん)(片岡仁左衛門(にざえもん))が石井右内を殺害、神陰流の秘書を奪う。兄、右内の敵を討とうとした兵介を返り討ち後、右内養子、源之丞らをもだまし討つ。ついに源之丞子息、源次郎が家来、袖介の助太刀を得て、3代にわたる遺恨の場が訪れる。

 仁左衛門の悪の様態変化にほれぼれする。序幕、兵介殺しの白塗り二枚目顔。涼しさ隠しずるさを強める。一転、揚屋「丹波屋」では2役の町人、八郎兵衛にふんし、ちゃらんとした悪の粋を見せつける。時を経るごとに鬘(かつら)、衣装、たたずまいに滲(にじ)ませる陰惨、残酷、狡猾(こうかつ)ぶりが増幅する。敵役を楽しむ仁左衛門一色の魅力。芸力が冷え冷えと映えた。中村雀右衛門(じゃくえもん)、中村又五郎らが好助演。27日まで、東京・半蔵門の国立劇場。(劇評家 石井啓夫)

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