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【鑑賞眼】芝居も極付、感動の長兵衛 歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」

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【鑑賞眼】
芝居も極付、感動の長兵衛 歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」

 初代中村吉右衛門の俳名を冠し、功績をたたえる「秀山祭」。孫の二代目吉右衛門が、初代ともどもの当たり役である2作品に主演した。

 昼の「極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)」が河竹黙阿弥の名ぜりふと呼応して感動的。江戸・花川戸の侠客(きょうかく)長兵衛(吉右衛門)と旗本水野十郎左衛門(市川染五郎)との男の意気地をかけた対決。「長兵衛内」の場がことにいい。吉右衛門が、死を覚悟して後事に思いをはせる「歎息なして…」の語りにつれ、顔を硬直させる。無言の容貌に宿る芝居の醍醐味(だいごみ)。竹本葵太夫の炎のような浄瑠璃も、名演に火をつける。染五郎初役の水野の作りも眼を射る。白塗りに映える憂愁。含みある面立ちに人間性の分の悪さをあらわにする。見事な水野像だ。

 夜に「ひらかな盛衰記」から名場面「逆櫓(さかろ)」。せりふ、見得と俳優の器量で見せる時代物。吉右衛門が軟から硬へ、町人の船頭松右衛門から実は武将樋口次郎へと鮮やかに変わる。漁師権四郎に中村歌六(かろく)。

 夜の最後に吉右衛門が松貫四(まつかんし)の筆名で書いた「再桜遇清水(さいかいざくらみそめのきよみず)」。歌舞伎伝来の「清玄桜姫物」にアイデアを借りた。美しい桜姫(中村雀右衛門(じゃくえもん))に恋い焦がれてしまった僧侶清玄(染五郎)が破戒、堕落をものともせず、殺され幽霊になっても姫に付きまとう。人間の業を諧謔(かいぎゃく)味たっぷりに描く。吉右衛門が32年前に作、主演。歌舞伎座では初上演。昼はほかに「毛谷村(けやむら)」と舞踊「道行旅路の嫁入」。25日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)

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