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【鑑賞眼】国立劇場「伊賀越道中双六」 好配役で人間喜劇の神髄

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【鑑賞眼】
国立劇場「伊賀越道中双六」 好配役で人間喜劇の神髄

 国立劇場開場50周年記念の締めくくりは、歌舞伎「伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」の通し上演。「曽我兄弟」や「忠臣蔵」と並ぶ“日本三大仇討(あだう)ち”物語の一つ。剣豪、荒木又右衛門(またえもん)(本作では唐木政右衛門(まさえもん)=中村吉右衛門(きちえもん))が義弟、渡辺数馬(かずま)(同・和田志津馬(しづま)=尾上(おのえ)菊之助)に助太刀して果たした「伊賀上野の敵討ち」だ。

 武家社会の約束事とはいえ、本懐を遂げるまでの艱難(かんなん)辛苦、当事者に絡む家族たちの悲劇の巻き添え。あっぱれ、敵討ち成就の裏にこびり付く恩愛、悲哀の情。

 今回は人気の「沼津」の場を外し、平成26年に当劇場で44年ぶりに復活した「岡崎」の場をメインに据え、ドラマの醍醐味(だいごみ)を作った。敵、沢井股五郎(中村錦之助)を追っての道中、彼の許嫁(いいなずけ)お袖(中村米吉)に見そめられ、志津馬がやってきたのがお袖の父、山田幸兵衛(中村歌六(かろく))宅。続いて政右衛門も到着。2人は幸兵衛から股五郎の行方を聞き出そうと素性を隠しているが、政右衛門の妻お谷(中村雀右衛門(じゃくえもん))が赤子を抱いて現れたため、わが子である赤子を本懐の妨げと殺してしまう。その真意を悟る幸兵衛、政右衛門、志津馬、お谷…それぞれの悲しみの見得が哀切だ。

 また、86年ぶりという「円覚寺」の場が出て、股五郎の悪辣(あくらつ)非道がさらされ、敵討ちへの悲惨な過程を納得させた。錦之助の悪の様相が見せる。吉右衛門以下、好配役で人間喜劇の神髄を描き出した。27日まで、東京・半蔵門の国立劇場。(劇評家 石井啓夫)

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