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【追悼】加藤武さん 貫き通した東京っ子の意気地 早稲田大学教授・児玉竜一

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【追悼】
加藤武さん 貫き通した東京っ子の意気地 早稲田大学教授・児玉竜一

黒澤明監督の映画「悪い奴ほどよく眠る」や市川崑監督の金田一耕助シリーズなど映像でも長年、活躍した=平成26年3月

 70年目の8月を目前に、加藤武さんが急逝された。

 スポーツジムのサウナで倒れられたことからも分かるように、直前まで元気そのもの、いつもの快活な大音声は健在だった。代表を務めておられた文学座でも前日に例会へ顔を出され、9月から主演舞台が予定されていた。特に、戦後70年のこの夏はインタビューや体験談にも引っ張りだこで、雑誌『演劇界』の8月号で戦中戦後の歌舞伎についてうかがった折も2時間半休みなし、まだまだ話し足りない感じだった。

 東京・築地生まれの築地育ち。揃(そろ)って芝居好きの小田原町の生家は魚河岸に出入り、生粋の東京っ子だった。ご著書の『街のにおい芸のつや』に「歌舞伎座燃ゆ」という一世一代の名文がある。昭和20年5月25日深夜に銀座一帯を襲った大空襲で、歌舞伎座は外壁を残したまま天井が落ちる形で燃え尽きた。

 前日に16歳の誕生日を迎えた加藤少年は火の海の中で歌舞伎座の正面に立ち、その最期を見届けたのである。この日の、この光景を語られるとき、加藤さんの口調は常に、今、目の前にあるかのような臨場感を帯びた。舞台から映画、テレビ、語り芸の世界へと、幅の広い表現を豊かに担われるとともに、東京のこと、空襲のことのすぐれた語り部だった。東京っ子の意気地を貫いたというべきなのだろう、反戦への思いには筋金が入っていた。

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